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午前六時の定時放送で目を覚ました河内貴哉(背番号24)は広池浩司(背番号68)とともに朝食をとっていた。広池が民家からとってきたというマーマレードジャムが、支給された味のないパンにアクセントを添えた。 「広池さん」という河内の声が聞こえ、広池は河内を見た。河内は立木に背を預け、左手に持ったパンに視線を落としていた。 「俺、あの入り口の前で広池さんを待ってればよかったんですよね、考えてみたら。そしたら、最初から一緒にいられた」 顔を上げて広池を見た。 「けど、俺、怖かったから…」 「そりゃそうだよ、遠藤と河野の死体が転がっていれば」 「河野さんも?―――俺、遠藤さんしか見てない」 「そうか。なら河野は新井以降の誰かが殺したんだな」 沈黙が二人を包んだ。正体の見えない誰かが仲間を殺しつづけている。その誰かは一人かもしれないし、複数かもしれなかったが、その誰かのせいでこの島にいる選手はだんだんと減ってきていた。 「ここに移動するまで、誰かを見たか?」 広池の質問に、河内は首を振った。 「そっか。下の公園の近くに神社があったろ」 「はい」 「あそこに誰かいた。しかも複数だ」 「―――そうなんですか?」 「うん。多分―――誰かを待っていたんだと思う。もっとも出てきたのは僕が最後だったんだけど。とにかく、僕には気づいていなかったみたいだ。複数だからたちまち敵になる人たちってわけじゃなかったんだろうけど、自分から仲間にしてほしいと出向く理由もなかったし、すぐにその場は離れたんだけど。それに―――そのほかにも二人、僕は見てる」 「本当ですか?」 「ああ。一人は、あまりがっしりしてない選手だった。ぼさっとしたくせ毛みたいな髪の毛だったから、たぶん鶴田さんだったと思う。僕がこの山の裾野のほうを動いてる時、茂みの向こうを移動していくのが見えた」 「声、かけなかったんですか?」 広池は肩をすくめた。 「ちょっと、ね。偏見かもしれないけど、こっちに来てまだ一年だし、それなら鶴田さんが僕らに情をかける理由もないだろ?」 ちょっと考えて、河内が頷いた。 「それと、あの前田さんを見た」 「前田さんかあ。こんな状況だからかもしれないけど、何となく怖いですよね」 「そうなんだよな、だから僕も声をかけるのは遠慮したんだけど」 広池はちょっと視線を空の方に上げた。すぐに河内の顔へ戻した。 「向こうも僕に気づいてたようだった。僕はちょうど公園に入ったところだったんだけど、前田さんが自分のすぐ先にいたんだ。ショットガンみたいなのを持ってた。僕は木の陰に隠れたんだけど―――前田さんはしばらく僕のほうを見てたはずだ。すぐどこかへ行っちゃったけど。攻撃してきたりはしなかった」 河内が「ふーん」と言った。 「しゃあ少なくとも、敵じゃないって事ですよね、前田さんは」 広池は首を振った。 「それはわからない。僕も銃を持ってることに気づいて、大事をとって攻撃するのはやめたのかもしれない。どっちにしても、僕はやめといた、前田さんを追いかけるのは」 「そうですか…」 河内は頷き、それから何か思いついたように顔を上げた。 「あの、俺、誰も見てないんですけど、建さんと横山さんが撃たれる前に、別の銃声がしませんでしたか?」 広池は頷いた。 「した」 「あれ、あのマシンガンとは別ですよね。あれも、建さんたちを狙ったんですかね?」 「いや、そうじゃないと思う。恐らく、高橋さんたちをやめさせるつもりだったんだ、あの銃声は。あんなことしてたら危ないことは分かり切ってるんだから。銃声に驚いて、高橋さんたちが隠れてくれないかと、撃った人は思ったんだと思う」 河内がちょっと興奮したように身を乗り出した。 「じゃあ、少なくともその人は敵じゃないって事ですね」 「そうだと思う。けど、合流する手だてがない。どの辺から撃ったか見当はつくけど―――だけど、もうその選手も動いてるよ。あのマシンガンの選手にも位置を知られたことになるから」 河内がいささか残念そうに体をひいた。 「まあ、そう残念そうにするな」 そう言うと、広池がデイパックを担いだ。 「何するんですか?」 「ゆっくり移動する。―――昨日、いいもんを見つけたんだ」 【残り34人】
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