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しばらく静かに―――午前六時の定時放送があった以外は―――時間が流れていた。目の前の滝も変わらぬ様子で流れている。三人はさっきと同じ場所に座っていた。 木村拓也(背番号0)の遺体は前田の横に寝かせてあった。毛布がかぶせられ、本当にただ寝ているかのようだった。毛布の上には、真っ赤に染めた血を前田が池で洗い流した木村のユニフォームと、―――これは前田が提案してそうしたのだが、森笠の着ていた背番号41のユニフォームが重ねておいてあった。木村の足もとに小鳥が飛んできて、ほんのわずか前の出来事などまるで知らないかのように、チチチと鳴いた。 木村のデイパックの中には、備品と拳銃(トカレフTT−30)、さらに私服や時計なんかも入っていて、その奥のほうから家族四人で写っている写真が出てきた。生まれたばかりの子供を抱いて写真におさまっている木村の笑顔を見ると、なんだかいたたまれない思いがした。その写真は今、前田の手元にある。 「誰が殺ったのか、聞かなかったな」 前田がぽつりと言った。新井も森笠も足音だけは聞いていたが、その人物を確認することはしなかった。 「いつの場合もそうだが、善人がいい目にあうかって言うとそうじゃない。むしろ逆が多いかもしれんな。こいつの武器はしっかりバッグに入っていただろう?たぶん―――わしの推測でしかないが、戦う気はなかったんだろう。チームメイトを信じようとした。高橋建や横山と同じタイプだな。この辺にいればあいつらが殺された事も知ってただろう。なのにそれでも信じようとしてた、そのことは褒めてやりたい。わしには、今もそれができないんだから」 前田の言葉が心にしみこむ。新井も森笠も、ただ黙って聞くしかなかった。 「近くにいたのに、そんなこいつを助けてやれなかった。本当に、いいやつだったのに」 「前田さん、やめましょう。そこまで自分を追い詰めなくても」 「目の前で森笠が殺されて、それを助けてやれなかったら、お前はそう思わないか、新井?あそこで嶋が殺された時、そうは思わんかったんか?」 「それは―――」 言葉は出なかった。きっと前田と同じ事を思うだろうし、実際嶋が死んだ時、何もできなかったことを後悔していたのだから。 「他人のためにこのゲームに乗るなんて決してしないと思っとったが、やめた」 表情一つ変えずにそう吐き捨てると、前田は立ち上がった。 「そろそろ皆動き始めるじゃろう。また身を隠すぞ」 その言葉と雰囲気に促されて、新井も森笠も素直に立ち上がった。前田は足元の木村を見下ろして、言った。 「写真、お前の形見でもらっていくから」 そして新井と森笠の方を振り向いて、言った。 「タクを殺したやつが現れたら、俺が殺る。―――手出しは、するな」 【残り34人】
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