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「―――禁止エリアは以上でーす。いいかー、殺すペースをあげんといつまでたっても広島に戻れんけえのー。それと暗くなったけえ、鹿や猿と人間を撃ち間違うなよー」
そう言うと達川光男(元監督)は放送機器のスイッチを切った。たった今、午後六時の放送が終わったところだ。正午から現在までの死者数は、正午までのそれと比べて半分になっていた。このまま殺し合いがペースダウンしてしまったら、広島へ帰るのがますます遅くなってしまう。達川はじめコーチ陣はもっとペースを上げたかったのだが、自分たちはここでゲームの進行を見守るしかなかった。―――己の身を守るためにも。
本殿の中には照明やコンピュータ、諸々の機材を動かす大型の発電機などが持ち込まれていた。半分は海に囲まれているという事で、特にしきりなども設けず、入り口と出口にそれぞれコーチが武器を持って見張りをしている程度であった。このすぐ近くで殺し合いが繰り広げられているとは思えないほどのんびりとした雰囲気が漂っていた。
ブーッ、ブーッと達川の携帯電話が机の上で振動した。ディスプレイにうつされた番号を見て慌てて達川は通話ボタンを押した。
「はいはいはい、達川です。はい。はい、ああ、まあ―――順調ですね」
なにやら笑顔で電話の向こうの人物と談笑する。
「前田ですか。わし?わしゃ金本にしたんですよ。いや、ええ、前田も捨てがたかったんですけどねえ、もうこりゃ見た目ですね。はい、はは。あー、データは球団事務所に送っとるんですが―――見てない?はいはいはい、まだ生きてますよ。状況?はい、ちょっと待ってくださいね」
達川は受話器を耳から離し、しかめっ面でパソコンの画面に見入る松原誠(チーフ兼打撃コーチ)に話しかけた。
「松原さん、前田はまだあの二人とおりますかねー?」
「います」
パソコンのモニタには、選手につけた首輪からの電波をもとに生徒たちの居場所が地図上でプロットされていた。
「はいはい、お待たせしました。えーとですね、前田は今、ほかの二人と一緒に行動しとります。えーと、新井と森笠なんですが…はいはい。前田が何か知っとるみたいなんですが、盗聴の記録、聞きます?え?いや、そこまで話しとらんみたいですが。大丈夫でしょう。わしもキャンプに行きましたけど、特に問題は。はい、はい」
いつもの達川節で会話は続いていたが、受話器の向こうの声に幾分眉を持ち上げた。
「えー、話すんですか。また事が大きくならなきゃいいですけど。あいつは選手時代から真面目で。ええ、もう。コーチになっても。見ておられたでしょう。はいはい、そうそう。まあ、東京で何かあったらまた連絡ください。いや、長期戦になりそうですからね。はい、はい。ほんじゃ、また連絡お待ちしてます、阿南さん」
そう言って達川は電話を切った。そこでひとつため息をついて、視線を動かした。
「ペー…は、と」
「さっきトイレに」
松原がモニタから顔をあげて答えた。
「GMもベタな所に賭けたんですね」
「あー、あん人は昔から冒険はせんですけぇ。松原さんは誰にしたんですか?」
「若さをかって東出にしましたよ。あの性格だったら早々殺されないでしょうし、足もある」
「あー、そうきましたか。わしゃ安易に行き過ぎたんかのう」
「いいじゃないですか。しかしすごいですな、金本は!さすが四番だ。こんな所でも率先して行動するとはねえ」
そこで達川と松原はそろって笑い声を立てた。

【残り39人】

 

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