単発の銃声が二度続いた後、新井も森笠もしばらく動けなかった。いつの間に帰ってきたのだろう、上空を舞うとびが、ういーひょろ、と鳴いていた。しばらく辺りを見回していた前田が踵を返し、
「終わったか。戻ろう」
と二人を促した。それを聞いて、新井の唇がわなわなと震えた。
「―――終わった、だなんて、いくらなんでも酷いですよ。ほかに言いようがあるでしょう?」
「気を悪くしたか。悪いな、わしはそんなにご立派なボキャブラリーを持っとるわけじゃない。―――しかし、これではっきりわかったろう。選手の中にやる気になっとるやつがおる。達川さんらがわしらをはめようとしてやった可能性もあるが、あの人らだって命がおしいんじゃけ、神社から出てくることはないやろ。選手の動きがわかっとるなら、なおさらな」
新井はまだ何か言いたい気分だったが、何とか自分を抑え前田の後をついていった。森笠は遠藤の死体を見たときと同じように、ショックで言葉が出ないようだった。
元の場所まで戻ると、前田が荷物をまとめ始めた。
「お前らも準備しろ。念のため、ちょっとばかり動く」
「今からですか?もう暗いし、動かないほうが―――」
「今の見たやろ?誰かはわからんが、容赦のないやり方だったな。しかも武器はマシンガンかなんかだ。きっとわしらの場所にも気づいとる。あんなんに位置を知られたんなら、今からでも動いた方がマシだ。…心配するな、少しだけだ」
同じ頃、新井たちよりやや麓に位置する茂みの中で、小林幹英(背番号29)が落ち着きなく斜面を登っていた。勿論、一連の出来事をその耳で聞いてのことだった。
―――いったいどうなってるんだよ!新井が廣瀬を殺したり、建さんと横山が誰かに撃たれたり!狂ってる!狂ってる!狂ってる!
狂いかけているのは小林の方だった。殺戮の連続で彼の頭の中は引き出しの中身をひっくり返したかのように、どこから整理に手をつけていいか分からないほどめちゃくちゃになっていた。気をつけないと無意識に嗚咽がこぼれそうだったし、気をつけていても彼の目から涙がぼろぼろとあふれてくる状態はずっと続いていた。
ふいに、木の枝が折れる音にまじって、何かが聞こえてきた。
「…エイ、幹英!」
―――人の声!どっからだ!誰だ!!俺は連れて行かれないぞ、迎えにきたっていったってそうはいかないぞ、死神の野郎め!!
「どこだ!殺せるもんなら殺してみろ!!」
小林は荷物をぎゅっと抱きしめると、あたりに向かってわめきちらした。しかし、何も聞こえてこなかった。なんだ?俺の気の迷いか?小林が少々の落ち着きを取り戻しかけたその時、ふいに懐かしいメロディーが電子音となって流れた。その音で、まだ平和だったあの頃の記憶が走馬灯のようによみがえってきた。
―――それ、その着メロは…。
わらにもすがる思いで小林は必死に音のするほうを探し、そして発見した。
「……あ!!」
【残り39人】
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