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横山竜士は枯葉舞う地面を這いずって、高橋建の方へ進んだ。腹部が何かとても熱く全身の力が抜けたようになっていたが、それでもまだ這うことくらいはできた。横山が這った所に落ちていた黄色や茶色の落ち葉が赤く色を変えていた。
「建さん!」
横山は叫んだ。そうしたおかげで腹部が引きちぎられるように痛んだが、そんな事は気にならなかった。一緒に帰ろうと約束した高橋が倒れて動かない。そのことだけが重要だった。
高橋はうつぶせに倒れ、横山の方に顔を向けていたが、その目は閉じられていた。高橋の体の下にとろっとした感じの赤い池が広がり始めた。
横山は高橋の体までたどり着くと、力を振り絞って自分の上半身を起こした。それから、高橋の肩をつかんで揺すった。
「建さん!建さん!」
叫ぶ側から高橋の顔に赤い霧が降りかかったが、横山はそれが自分の口から出ているものなのだとは気づきもしなかった。
高橋がゆっくり目を開いた。苦しそうに「横山…」と呟いた。
「建さん!しっかりしてください!」
高橋が顔をゆがめた。しかし、何とか持ちこたえると、「ごめん、横山」と言った。
「僕がばかだった―――早く、逃げろ」
「だめです!」横山が泣きながら首を振った。
「建さんも一緒に!」
それから横山は慌てて辺りを見回した。自分たちを撃ったものの影は見えない。きっと、かなり距離のあるところから狙撃したのだ。
「早く!」
高橋の体を起こそうとしたが、それはとても無理だった。すぐに、自分の体を支えているのもつらいことが分かった。腹部にそれまでに倍する痛みがはしり、横山はうめくと自分も再び前のめりに倒れた。ただ、顔だけは高橋の方に向けて。
「横山、動けないのか?」
高橋がいつもよりもっと弱々しい声で聞いた。横山は無理矢理顔の筋肉を動かして、笑って見せた。
「そうみたいっす」
「すまん」と高橋がまた小声で言った。もう声を出すのもつらそうだった。
「いえ、俺たち、やるべきことをやったでしょ、建、さん?」
それで高橋が泣きそうな顔をするのが分かった。比較的軽傷だと思った横山自身も意識が急速に薄れかけていた。まぶたが重い。それでも、言いたいことを言わなければ。
「建、さん。俺、建さんと、同じ、チームに、はいれて―――」
ほんとうによかった、と続けようとした目の前で、ぱん、という音とともに高橋の頭が揺れた。高橋の右のこめかみの上に赤い穴が開いていて―――高橋はもう、うつろな目を横山に向けているだけだった。
恐怖と驚愕に口を大きく開いた横山の耳に、もう一度ぱん、という音が届き、同時に頭をガンと殴られたような衝撃がきた。それが横山の、最後の知覚になった。
金本知憲(背番号10)は、建物の影から見えないよう低くした姿勢のまま、長崎元のものだったワルサーPPKをすっと下ろすと、二人のデイパックを拾い上げた。

【残り39人】

 

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