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「森笠、足大丈夫か?」
再びしばらくの沈黙を破って新井が口を開いた。ふいの質問に森笠は、忘れてた、といった様子で傷をおった左足を見た。その声に前田も反応して森笠を見た。
「ああ、血も止まったみたいだし大丈夫そうだ。忘れてたよ」
「あの時のか?」
「はい」
返事を聞いてちょっと考え、しかし前田は自分の荷物をあさると、白く小さい紙袋から一錠ずつ梱包してある薬のようなものを取り出して、それを半分ずつに分けると、片方を森笠に投げた。
「わしのもらっとる鎮痛剤。何かあったときのために持っとけ」
森笠は目をぱちくりした。それでも、受け取った。
「前田さん」
新井は残りの薬をバッグにおさめている前田に声をかけた。
「前田さん、練習場の窓を開けようとしてましたよね。何か異変に気付いてたんですか?」
前田が肩をすくめた。
「見てたんか。なら手伝え」
「もう体が動きませんでしたよ。何か…知ってるんですか?」
「何も…」
と言いかけて、前田がどこか遠くを眺め、何を思ったのであろう、再び言葉を続けた。
「いや、キャンプの雰囲気がどこか違ったな。それだけだ、何かあるんじゃないかと思ったのは…その何かがこれだとは予想もつかなかったが」
雰囲気?いつものキャンプと何ら変わらないような普通のキャンプだと今の今まで思っていたが、前田には何か違和感があったのだろうか?一体どこにそんな雰囲気があったのか、新井にも森笠にも全くわからなかった。
「お前ら、これからどうしようとか考えとることあるか?」
これから―――新井は隠れていることに精一杯で、正直な話何も考えていなかった。ただその場しのぎで時間をつぶそうと思っていた。
「もしできるんなら、信用できる人たちを集めて、何か一緒に考えられませんか?大勢で考えたら、いい知恵が浮かぶかもしれない」
そう言ったのは森笠だった。そうだ、と新井も納得した。前田が左側の眉だけ持ち上げた。
「信用できる人ってのは、この場合誰の事だ?」
この一言で森笠と新井は顔を見合わせ、考えて今度は新井が答えた。
「同期だったら広池さんとかはパソコンとかめちゃくちゃ使えるからすごく役に立ちそうだし、東出とか…何考えてるかわかんないけど、それなりに役に立つと思います」
前田はそれで新井の顔を見ながら、自分の顎にしばらく手を這わせた。それから言った。
「広池なら、見たな」
「どこでですか!?」
「まだ朝のうちだ。ちょっと整備された公園からこの山に向かってくるあたりで。銃も持ってた。わしに気付いてるようやったがの」
「声はかけなかったんですか?」
「どうして?信用する理由は何もない。銃を見てむざむざ声をかけるか?瀬戸と会った場面と同じじゃろ」
そう返されて新井も森笠も言葉はなかった。
「そうお通夜みたいな表情すんなや。広池のことはよう知らん。さっき言ったようにこのゲームじゃ人を疑うのが原則だ。特に頭の切れそうなやつは用心せんといかん。声をかけたところで広池が確実にうんと言うとは限らん」
「じゃあ前田さんが広池さんを見たところまで行きましょう。広池さんは絶対信用できます。きっと広池さんなら何か思いついてくれるはず―――」
前田が首を振っているのに気付いて、新井は途中で言葉を切った。
「広池がお前の言う通りの切れ者ならな、新井。あいつがわしに姿を見られた所にずっととどまってると思うか?」
その通りだった。新井はため息をついた。深い深いため息だった。
「あの…今からでも、ほかのみんなに連絡をとる方法ってないんですか?」
森笠が聞いた。前田はまた首を振った。
「お前らの脳味噌は筋肉で出来とんのか?不特定多数を集めるならともかく、特定の個人に連絡をとるのはほぼ不可能やろう。携帯を使えれば何とかなったが、神社で言われたじゃろう?電波もチェックしとんのやぞ。携帯なんか使ったらたぶん…想像だが、この首輪が爆発くらいするだろうな」
「誰だっていいじゃないですか!もっと仲間がいれば…」
「アホ。やってきたヤツが今銃をぶっ放してるヤツだったらどうするんだ?わざわざ死にに行くのか」
沈黙が落ちた。結局助かる方法はないのか…そう思った、その時だった。とても遠く、それでも少し電気的に歪んでいるのが分かる『みんなーっ』という声が聞こえてきた。

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