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響いた銃声に前田は体を起こした。周囲に気を遣い逃げ回る(あるいは息を潜めて隠れたり、積極的に攻撃を仕掛けていく)このゲームは、選手の体力を確実に消耗させていた。特に殺し合いを経験してしまった選手はなおさらである。新井と森笠という、仲間というよりは気の合う子分をつけた前田は、森笠のもとへ着いた後、「少し横にさせてくれ」と言ってすぐに寝息を立ててしまったのであった。いかにも前田らしかった。 「今のは銃か?」 確認するように前田は聞く。 「そうみたいです」 「近かったな」 「ですね」 言われてみれば今まで聞いた中で一番大きく聞こえた銃声であった。そうすると、このゲームにのっている選手が確実に近くにいるという事だ。今の新井には、その人物が尊敬する兄貴分である金本であるとは勿論知る由もない。 「今何時だ?」 前田の短い質問に今度は森笠が答えた。 「4時です」 「…長いな」 返ってきた答えにあきれたように前田が言った。昨日までの時間の流れと今日までの時間の流れがあきらかに違う。ただのんびりと過ごしていたはずの日々が一変していた。仲間と殺しあうくらいなら時間切れになって爆死したほうがいいと思っていたが、時間は自分たちをしっかりと捕らえたまま離してくれそうにない。こうしている間にもまた誰かが誰かを殺しているのかもしれなかった。 「なんか考え事しとるやろ、新井」 ふいに前田が声をかけてきたので新井は少々戸惑った。 「いえ…」 「どうせ廣瀬か瀬戸のことじゃろうが。廣瀬と何があったかしらんが、瀬戸についてはああするしかなかった」 「それはわかってますけど」 「なんで廣瀬とやりおうた?正気じゃなかったかもしれんかったとはいえ、なんか挑発するようなことでもしたんか?」 「そんなことは…」 新井は言いかけ、思い出した。廣瀬と向かい合った時自分はナイフに無意識に触れた、確か。新井自身も怖かったのだ、廣瀬のことが。 「何か思い当たるか?」 「ナイフに―――触りました。けど、それくらいで」 前田は軽く首を振った。 「アホ、理由としちゃ十分やろ。廣瀬は考えたのかもしれん、とにかく目の前で武器を手にしているお前を倒さんといかん、と。このゲームじゃみんな導火線がかなり短くなっとる」 それから締めくくるようにいった。 「しかし、やっぱり廣瀬はやる気になってた、というのが一番わかりやすい説明だろうな。いいか、わかる必要なんかない。とにかく、相手が自分に武器を向けたら容赦するな。そうじゃなきゃお前らが死ぬぞ。相手のことをつらつら考えるよりは、まず疑っとけ。このゲームじゃむやみに人を信用せんほうがいい。たとえそれが友達であろうと何であろうとな」 一通りまくしたてた前田だったが、ふと森笠と目があって、さらに続けた。 「だからといって新井に森笠を信用するなと言ってるわけじゃないし、森笠に新井を信用するなと言うわけでもない。お前らは俺の話からすれば例外なんじゃろ」 「どうして」 不意に森笠が口を開いた。 「どうして前田さんは僕らと一緒にいるんですか?そんな風に思ってるのに」 「別に…乗りかかった船、だ。―――安心しろ。有望な未来のある若手を殺そうとはこれっぽっちも思っとらんから」 まるで答えたくないインタビューに答えているかのような表情で前田は答えた。 【残り41人】
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