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「見てたんですか?」 少々驚いたものの、悪びれる様子もなく東出は聞いた。返答の態度次第で東出はどう出るか決めようと思ったのだ。 「まあ、ね」 岡上も死体を目の当たりにしている割には落ち着き払った風に、しかもうっすらと笑みをたたえて答えた。その笑みで東出は一瞬にして理解した。 ―――こいつは、俺と同じ人種だ! そう東出が考えたのと同時に、岡上が右手をつきだした。その手には拳銃(苫米地が握っていたものと同じ357マグナムリボルバーだった。というか、むしろ岡上の右手にあるそれは、数十分前には苫米地の右手に握られていた。銃声を聞き苫米地と玉山の死体を発見した岡上は冷静に苫米地の右手からこの銃だけを奪い取ってきたのだった)が握られている。東出は身の危険を感じ取り、踵を返して住居に入って行った。銃声とともに耳のすぐ横を何か熱いものが通過したようだったが、構っている暇などない。構おうものならあいつに殺される! 「待て!」 岡上は一発撃った後にすぐ東出を追いかけた。―――あいつも速いだろうが俺だってこれが売りでこの世界に入ってきたんだ。そう、この走力とお前より堅実であろう守備を売り物にしてな。膝?そんなもんちょっとしたハンデだ。東出、お前がいなけりゃ俺がカープのショートストップに間違いないだろう?ほらほら待て、逃げるんじゃない。お前を我慢して使っていた監督ももういないんだ。サシで勝負しようぜ、東出―――。 東出も必死で逃げた。さっき何か熱いものが近くを通ったと感じた自分の右耳が湿っている。チクショウ、弾が耳たぶにでもかすったか?まあいい、頭じゃなかっただけ幸運だったと思おう。 階段を上がり二階の奥の部屋まで走ってきたが逃げ場がない。あるのは、窓!窓から入ってきたんだ、お帰りも窓からどうぞ、ってか?そりゃまた用意がよすぎるよな。 東出は窓に駆け寄るとそれを開け、下を確認する。下にはちょっとした庭がある。落ち方によっては足を痛めるかもしれないが、コンクリートではなく土なのでその可能性は幾分低いだろう。 岡上の足音は近づいてきている。東出はサッシに足をかけると下へ飛び降りた。そして建物の表の方へ逃げた。逃げる時に左足に痛みが走った。ちっ、あてが外れた。また古傷が再発か。あれは一安打で勝った試合だった。セカンドゴロの間にホームベースに滑り込み痛めた足だ。そのプレーがきいてあの試合は勝ったのだが、もう野球なんて東出にはどうでもよかった。とりあえずこの場から逃げる。―――俺は生き延びる! 岡上は二階の部屋を全て(といっても二つしかなかったわけだが)覗き、そのうち一つの部屋の窓が開いていて、さらには東出の姿が見えなくなったのに気付くといまいましく舌打ちした。 殺しそこなったか。まあ、いい。あいつもこのゲームにのった事は確認できた。そしてあいつには刃物しか武器がないことも。岡上はまたも笑みを浮かべた。 ―――待ってろよ、東出。お前は必ず俺が殺すからな。 【残り44人】
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