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藪の中をジグザグと走り、追跡者がいないことを確認し、勿論周囲に人の気配がないことも察知すると新井は足を止めた。山に着くまでそこそこの距離があり、スポーツ選手とはいえ休みなく走ったためにさすがに息があがった。そして森笠の怪我を考えると、ここらへんが限界だろうと思った。
「足、大丈夫か?」
「心配するんならむやみに走らせるな」
森笠が苦笑して答え、足に巻いていたタオルを取った。傷口から流れ出る血はまだ止まっていなかった。
「タオルじゃ限界があるな」
新井は自分の荷物から私服を探し、そのポケットにあったハンカチを取り出すと、帯状に畳み包帯代わりにきつく巻き始めた。当面の止血だけならこれで何とかなるだろう。ハンカチを巻きつけながら新井は「ちくしょう」と呟いていた。
「―――嶋のことか」
「嶋のことも河野のことも、このゲームもみんなだ。なんなんだ、これは…」
「河野?…まさか遠藤さんのやつは河野が?」
「ああ。俺も狙われたよ。出口のところに隠れていて、俺が矢を投げたら落ちてきた」
新井はそこまで口にして、そしてようやく河野をそのまま放置してきたことに思い当たった。気絶して当分起きないと、さっきはほとんど無意識にそう思ったのだが、自分たちが逃げている間に意識を取り戻しているだろう。そしてまたあのボウガンで人殺しを続けているのかもしれなかった。
「まさか選手の中からこんなゲームにのる人が出てくるなんて思わなかった。たしかにルールはルールだけど、本当に人を殺すなんて」
「たしかにな」
森笠は呟いて、そしてしばらく何かを考えて再び口を開いた。
「けど監督や嶋の死体を見ただろ。あれは冗談なんかじゃない。現実だ。―――怖いよ。恐怖心でいっぱいだ。誰だってそうなんじゃないか?次に殺されるのは自分かもしれない、って疑心暗鬼になるだろ。河野もそうだったんだよ、きっと」
森笠の言う通り、新井も怖かった。実際、殺されかけたのだ。
「でも、今まで一緒に野球やってきた人間を有無を言わさず殺すってのも酷いけどな」
吐き出すようにいった森笠の一言に新井は言葉を返すことが出来なかった。
「…しかし、お前が声をかけてくれてよかったよ。遠藤さんの死体を見たときは頭真っ白になってたからな」
新井の表情に影が差したのを見て、森笠がつとめて明るく言った。
「本当か?」
「ここで嘘ついてどうするんだ?ま、俺の足手まといにはなるなよ」
森笠の憎まれ口に、新井もようやく笑った。
「ならねーよ、バカ。お前もうちょっと歩けるか?」
「ああ」
「じゃ、もう少し移動しよう。落ち着ける場所を探そうや」

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