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新井は待っていた。森笠を、ただ待っていた。
待っている間、厳島神社の入り口からは背番号順に次々と選手が飛び出していった。勿論遠藤の死体はそのままだったので、皆一瞬その場で立ちどまり、このゲームが始まってるのを悟ったのか四方に逃げていった。新井にとって不幸中の幸いだったのが、その中で誰も雑木林のほうに逃げ込んできた選手がいなかった、ということだった。
小山田保裕(背番号39)が出発した。同期入団の小山田とも新井は仲がよかった。佐々岡の負傷からとはいえ、彼が昨年の開幕戦の巨人戦以来のセーブを甲子園であげたときは自分のことのように喜んだほどだ。そんな友人と戦うなどしたくはない。しかし、遠藤の死体を、河野の行動を見た後でそんな言葉を純粋に吐き出すことは、不可能に近かった。
倉義和(背番号40)も出発した。長谷川昌幸(背番号19)とのコンビで一時期名をはせた倉さん。そういえば倉さんも去年結婚したばかりだったなあ、と思い出した。本当に、本当にたった1人しか、すぐ近くに見えているあの広島に戻ることは出来ないのか?海の向こうを見ながらほんの昨日までの思い出に浸ってると入り口からまた1人選手が出てきた。
―――森笠!
森笠は他の選手と同じく遠藤の死体に気付くと立ちどまった。顔面蒼白という言葉がピッタリである。遠藤の死体を避けるように動くと、そのままタオルをまいた左足を引きずるようにして走り出した。
「おい、待て森笠!!」
不意に呼び止められて森笠は振り返った。雑木林から新井が降りてくる。
「そんな足でどこいくんだよ!」
「あ…」
森笠はさっきの遠藤の死体がよほどショックだったのか声さえ出せないようだ。
「ったく、一緒に逃げるぞ!」
そんな森笠の腕をつかむと、新井は弥山のほうに向かって走り出した。

【残り52人】

 

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