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「そうそう、忘れとったわ。みんなの首には首輪がついてまーす。こら!無理に外そうとするなー。外そうとすると…」 達川が一瞬言葉を切ったことで選手の手が首にのびる途中で止まる。 「…爆発するぞ」 またもや選手の動きがとまった。バクハツ?コロシアイ?ブキ?そんな言葉が頭の中を渦巻いている。 「その首輪でみんなの動きをわしらがチェックしとる。とりあえず同じ場所に隠れとらんように、どんどん立ち入り禁止エリアを設けるけぇ。禁止エリアに入ってもその首輪がドカン、じゃ。地図はバッグの中に入っとる。宮島も意外と広いけえ、最初からある程度の所で有刺鉄線をはって島の向こう側に行けんようにしとります。えーとなー、フェリー乗り場の向こうに自然公園があって、そっから―――あの後ろの山は弥山(みせん)言うんじゃが、その頂上を経由して一番奥の登山道に沿うようにはったはずやったのう。ま、確認すりゃわかるが、いいか、そっから向こうには入るなよー。禁止エリアと同じじゃど。あとな、皆隠ればっかりで、ずっと死人が増えんようやとわしらも広島に帰れんけぇ、24時間死亡者が一人もでなかったらこれまた爆発するようになっとる。そん時は、優勝者は、なしよ、っつうことじゃ」 あまりに人ごとのように言う達川に怒りを覚えないわけがなかったが、視界には倒れたままの嶋がいる。自分がああなってもいいのか、と新井は自分に言い聞かせた。 「そうじゃ、お前ら携帯を持っとろうが、使うなよー。電波もこっちがチェックしとるからなー。あと、この厳島神社はみんなが出て行って二十分後に禁止エリアになります。命が惜しけりゃとっとと離れろよー。誰が死んだとかどこが禁止エリアになるとかは毎日午前午後の零時と六時に放送を流すからよく聞くように。建物は自由に入っていいけど、ロープウェーはとめとるからなぁ、その鍛えた足腰で山登りでもしてくれや」 山登りだと?笑わせる。いや、笑い事ではない。わかっているようで、これは夢なのかもという思いも心のどこかにある。 「じゃあ背番号順に出て行ってもらうから、呼ばれたら返事して出て来いや。そうそう、出口は厳島神社の入り口のほうな。逆走せぇよ。自分の荷物は勝手にもっていってええからのう」 達川の後ろにはたくさんのデイパックを持った松原コーチと北別府コーチがいる。ああ、これは夢ではないのだ―――。 「嶋…はわしが殺してしもうたんじゃったのう。じゃあ0番木村拓也ー」 木村から三分ほどおきに次々と選手が出て行く。そして、新井の番がやってきた。本殿のほうに駆け出す瞬間、嶋の横を通る。 ―――嶋、何もしてやれなくてすまん。カタキは必ずとってやるから! そう心の中で叫ぶと新井は、デイパックを受け取り入り口のほうへただ走った。 【残り53人】
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