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「さて、いい加減みんなには殺し合いをしてもらうけぇのう」 気がつくと東の空がうっすらと明けてきている。一体自分たちはどのくらい気を失っていたのか、そして今までの悪夢はどのくらいの時間行われていたのか。森笠を横山とともに自分の横に運び、側にあった荷物の中から取り出したタオルで森笠のふくらはぎを縛ってやりながら、新井は何度も何度も考えた。 「舞台はこの宮島。勿論住人の方には出て行ってもろうとる。素手で殺しあえとはいわん。出発の際にデイパックを一人一つずつ渡すが、その中に武器が入っとるけぇ、それで殺りおうてくれ。武器にも当たり外れあるから、外れた場合は日頃の行いが悪かった思うてあきらめい。なんか質問はあるか?」 沈黙をやぶってどもった声が響いた。 「お、俺はドラフト1位で入ってきた。エエエリートなんだ。なんか、と、特典はないのか?」 捕手の瀬戸輝信(背番号28)である。こんな時になっても自分の身の保全しか考えてないのか、この人は? 「あのねぇ、瀬戸君は平等って言葉しってるよね。いいですかぁ、人間は生まれながらに平等なんですよー。ドラフトで何位であっても、結局選手としてスタートラインを切るのは同じ瞬間じゃろう?ドラフト云々で、その後の君たちの選手としての価値が決まるわけじゃない。選手の価値は活躍に応じてファンが声援で表してくれとる。瀬戸君にそれが聞こえとらんはずはないと思うがな。だから瀬戸君も自分だけが特別なんてそんな勘違いを―――するんじゃない!」 いきなり一喝されて瀬戸はペタンと腰をおろした。達川はしばらく瀬戸を睨んでいたがすぐに笑顔に戻った。 「このことはご家族の皆さんにはちゃんと報告しとるからなー。家族のことは心配するんじゃないぞ。新婚の金本や2人目が生まれたばかりのキムタクには申し訳ないがなー」 自分の名前が出され金本知憲(背番号10)も木村拓也(背番号0)も表情がこわばった。 「この殺し合いから脱出して向こうに帰れるのは、たった一人。いいかぁ、チームメイトを殺しあわないと帰れないぞー」 思考回路が停止した。おそらくこの場にいる皆そうだっただろう。今まで仲間としてともに戦ってきたチームメイトが敵?この人たちが消えないと帰れない?守るべき家族のある選手は勿論、そうでない新井のような選手でも両親や兄弟、友人、さらには将来妻になるであろう女性にさえもう会えない?理解しがたい言葉が次々と選手を襲っていった。 【残り53人】
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