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「冗談じゃない!!」
選手が一斉に顔を向けた。そこには嶋重宣(背番号00)が立っていた。
「僕らは野球をしにカープに入ったんです!なんですか、殺し合いって?そんなことをするために埼玉からきたんじゃない!!それに自分には家族もいる。こんな所で死んで家族が納得すると思うか!?」
「嶋クンねー、気持ちはわかるんじゃけど、カープに入った以上は球団の方針に従ってくれんかのう。それにのう…そういうデカい口を叩くのは一人前になってからにしてくれんか。期待するとすぐ怪我や不調で2軍落ちしよって」
達川が意地悪く笑った。嶋の表情がみるみるゆがむ。
「このやろっ…!」
「やめろ、嶋!!」
嶋の隣にいた横山竜士(背番号23)の静止を振り切り(嶋と横山も仲がよかった。それとともに、同期入団で昔投手だった嶋を横山はライバル視していた)、嶋は達川の方へかけだしていった。
「殺すんならまずあんたからだ!」
そう言って嶋は猛然と達川の方に駆け寄る。しかし、達川がそれをあざ笑うかのように右手をすっと出すと、その先に握られていた拳銃が1発、2発と火を噴いた。それに呼応するかのように嶋の体が2度揺れると、そのまま後ろへどさっと倒れこんだ。倒れこんだ嶋の顔を見た田中由基(背番号34)が「ひっ」と声を漏らした。二つ穴のあいた胸元から血がみるみる滲み出していた。
―――嶋!!
新井は思わず嶋のもとにかけよろうとした。入団した年が違ったとはいえ新井と嶋は同学年だ。森笠同様飲みにいったりもしたし、新婚の嶋のところへおしかけ奥さんの手料理を頂いたこともあった。その嶋が、あっさりと殺されてしまったのである。しかも、去年まで頼りにしていた前監督に。
「やめとけよ、新井!!」
かけよろうとしたその足に横山がしがみついた。しかしその横を、新井よりも早く嶋のもとに駆け寄った選手がいた。森笠だった。銃声が響く。森笠の左足が不自然に右へはらわれるような格好になり、はずみで前のめりに倒れた。左足のふくらはぎ横が擦り切れた感じで破け、赤いものがつたわり始めた。
「だーかーらー、静かにしろと言ったじゃろうが!!」
今まで見たことのない厳しい表情の達川がそこにいた。一通り繰り広げられた光景で選手たちはやっと悟った。―――これは、現実だ。
達川が新井に視線を向けていった。
「新井、わしにつっかかる元気があるんじゃったら、森笠をそっちへ連れて行け」

【残り53人】

 

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