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達川が「お願いします」と言った。本殿の方からユニフォームを着た男2人が担架みたいな物を運んでくる。その男は―――なんと松原コーチ(背番号71)と北別府投手コーチ(背番号73)である。担架からはダラリと…右腕が垂れ下がっている。新井は言いようのない嫌な感じに襲われた。 「松原さんもペーもこの計画にはすぐ頷いてくれたんだけどねー、山本監督だけは反対してたんだよー。ほいでねー、話つけるのもたいぎかった(面倒くさかった)けぇ、こうなっちゃいましたー」 達川が一際明るい声で説明し、担架にかけられていた布がとられた。一番前にいた矢野修平(背番号66)や林昌樹(背番号53)が人間の声ともつかない声で叫んだ。それを見て他の選手も身を乗り出す―――が、同様の反応しか起こらない。新井も前へ出ると悲鳴の対象を見た。そこにはミスター赤ヘルと呼ばれた山本浩二監督が、いた。いや、いたではなく、それらしい「物体があった」。 真っ白なユニフォームは血にまみれている。シーズン中ずっとかけていた黄色の眼鏡(それがもとで選手の間では「ピーコ」と呼ばれていたのだが)は左半分しかなかった。そりゃそうだ、頭半分しかないのだから。思わず新井は吐き気を催し、舞台の端へ駆け出すと海に向かってそれをもどした。 「はいはいはーい、大の男だろー?静かにしろ!!」 達川はベルトから拳銃を抜いた。空に向かって威嚇射撃でもするのかと思ったが、銃口は監督に向けられ、そのまま2発、もう動くことのない監督の腹に打ち込まれた。その体は交通教室で轢かれる人形のように波打ち、しかしそれだけだった。達川が視線を上げた時には、選手の悲鳴はやんでいた。 「それでいいんでーす。さーて、これからゲームの説明でもしようかのう」 達川が笑みを浮かべ言った、その時であった。新井の後ろから罵声が響いた。 【残り54人】
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