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「はいはいはーい、おきましたかぁー?みんなねぼけとらんかー?わしが誰だかわかっとるかー?」
去年までベンチで見ていた74番のユニフォームに身を包んだ達川が拡声器を通した陽気な声を発する。袖には懐かしい50周年のワッペンもされたままだ。そこにいる選手は皆何が起こったかわかっていない様子だ。
「わかっとるけど、これはなんなんですか?」
選手の視線が声のしたほうに注目した。佐々岡真司(背番号18)である。眉間にしわをよせて言葉を続けた。
「わしら球団に呼び出されて大野に集まったはずです。なんでこんな所に連れてこられてるんですか?」
佐々岡の問いに選手たちが一斉にざわめきだした。
「そういや球団に呼び出されたんじゃ」「今何時だ?」「なんなんだ、これ?」
「はいはいはーい、静かにせんか」
達川が拡声器のボリュームを上げて叫んだ。あまりの音に選手のさわめきが止む。
「わかった。説明しちゃるけんのう。今年はよう頑張った。わしが監督やったらここまでの成績は残せんかったじゃろう。しかし、結果は4位じゃ。またAクラスを逃した。あとひとふんばりが足らん。闘志が足らんのんじゃ。しかし人間誰しも内に秘めた力を持っとるはずでのう、今回それを見せてもらおうと思うとる。そこで、みんなにはこれからちょっと殺し合いをしてもらいまーす」
皆一様に耳を疑った。今達川は何と言った?コロシアイ―――?
「達川さん…冗談はやめてくださいよ」
さっきから立ちっ放しの佐々岡が信じられないといったように言った。それはここにいる選手全員の思いだったかもしれない。しかし。
「冗談じゃと思うか、佐々岡。ほんならなんでここまで連れてこられたんじゃ?」
佐々岡は言葉を失った。答えが見つからない。まさか、そんな。
「なんじゃ、お前ら、信じられんのか。ほいじゃこれを見りゃわかるじゃろう」

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