「苫米地・・・・・・。」
河内は高級旅館の屋上で凄惨な光景を見た。
河内が見たものとは、ふたつの死体だった。両方ともこめかみに穴が開いていた。その穴からは、河内との思い出もすべて抜けてしまっていた。
「そんな、そんな・・・・・・。」
河内は泣くしかなかった。ついこのあいだまで、いっしょにファームで汗を流していた、それも特によく話していた苫米地が、目の前で変わり果てた姿になっていた。8月、河内に再び1軍昇格のお呼びがかかり、他の若手投手から白い目で見送られる中、ただ一人笑顔で、
「頑張ってこいよ。」
といってくれた苫米地とは、もう会話ができないのだ。
「だれが・・・・・・誰がこんなひどいことを・・・・・・・」
苫米地の右手に銃が握られているのを、混乱した河内は気がつくはずもなかった。

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